水色のエプロン

この近所ならともかく、なんだか少し残念な気がした。
「どうして、そんなにガッカリした顔をするの?」
 今度はマーフィーが私の顔を覗き込んだ。
「もしかしたら本当にネオがマーフィーのお兄ちゃんなんじゃないかって、少し期待をしちゃって・・・。だけど東京って遠いでしょ。きっとネオはマーフィーのお兄ちゃんではないんだって思ったら何だか残念な気分になって。」
 塞ぎこむ私にマーフィーは続けた。
「ネオがどこから来たのか知らないの?」
「そうよ。私とネオとはね、ある雨の降る日に出会ったの。ネオは迷子になって私に拾われて、一緒に暮らすようになったのよ。」
「そうだったんだぁ。それなら出会えてよかったんだね。」
 明るいマーフィーの声がトリミング室に響いた。
「だけど知りたかったの。もともと何処で、どんな人と暮らしていたのか、それを知りたいと思ったの。」
 すると、マーフィーは不思議そうに私の顔を見つめた。
「どうしてそんなことが知りたいの?」
「どうしてって・・・。心が閊えるからよ。」
 マーフィーは、もう一度私の顔を見つめながら言った。
「僕なら会えただけで嬉しいことだって思うけど・・・。だけどそんなに気になっちゃうのなら、ネオに聞いてみたら?今まで何処のお家にいたの?誰といっしょだったの?って。」
「聞こうとしたわ、だけどネオは言葉が話せないのよ。」
 私が肩を落とすと、マーフィーは続けた。
「僕たちはみんな、お話をちゃんと聞いているよ。」
 マーフィーは会話を交わすなんて、誰にでもできる簡単なことなんだって顔をして、その場に座り込んだ。
「仮に私のお話を聴いてくれても、聞く一方じゃなくて、私だってネオの言葉が聞きたいのよ。」