フレディーは、もう一度大あくびをしてまるまると、しっぽの中に顔を埋めた。
「ほんとうに愛想のないやつ。」
 そんなフレディーを尻目に、私は来たときと同じようにお店の脇を抜け表玄関の前に立った。お店を見上げ今日一日を振り返る。こんな最高の日、今までで一番、最高の日。自然と自分の顔が笑顔になるのを感じた。
「早くうちに帰って、ネオともいっぱいお話ししなくっちゃ。」
 自転車に跨り、ペダルを勢いよく踏み込んだ。


「ただいま!」
 勢いよく玄関の扉を開け、家に飛び込んだ。
「ネオただいま!私犬と話が出来るようになったのよ。」
 リビングのサークルのベッドで眠るネオを私は抱き上げた。
「ちょっと来てネオ!」
 私はネオを抱きかかえたまま階段を上り、自分の部屋に飛び込みドアを閉めた。誰にもいえない秘密の話をこれからネオにするんだもの。
「ネオ!私ワンちゃんとお話が出来るようになったのよ。ねぇ何かお話してみて。」
 ネオの真っ黒でクリクリした目はいつも通りの透明度で、私の心を覗いているようだった。だけどその口が開くことは一向にない。
「ねぇ、どんなことでもいいのよ。そうね、例えば私たちが出会ったあの日、何故雨の中一人ぼっちでいたのかとか・・・。どこから来て最初はどんな飼い主さんと一緒だったのか・・・。」
 私がネオの瞳を見つめても、それでもまだネオは言葉を口にはしなかった。