フレディーは呆れ顔で私を見上げていた。私は洗濯したエプロンを物干し竿に洗濯ばさみでくくり付けた。
「しょうがないわ、ちゃんと耳栓とスポンジを使っても、どうしても暴れるワンちゃんいるんですもの。」
 私は腰に手を当てフレディーを見下ろした。

「フレディー、明日はあなたの、いいえ、このお店のオーナーが退院する日よ。どう、大好きな飼い主さんに、久しぶりに会う感想は?」
 フレディーは大あくびをして大きな口をあけていた。
「エプロン破いちゃったこと、ちゃんと誤らなきゃね。許してくれるかな?」
 一羽の鳥が私たちの頭上をかすめた。
「since1999の意味をオーナーさんに教えてもらわなきゃ。本当はフレディーの口からおしえてもらいたかったけど。」
 裏庭の芝も木々も青々としていた。
「もしかしたら、私がここに来るのも今日が最後になっちゃうかも知れないわ。」
 どんなに悲しい出来事が訪れても、時の流れがとまることは無かった。それを乗り越えて明日が訪れた。出会いがあれば別れもあった。だけどまた、きっと新しい出会いは訪れる。明日はどんな出会いが待っているのだろう。
「私、自分に誇りの持てるトリマーを目指すわ。もっと沢山勉強して、経験を積み重ねて。もう、辞めたいだなんて思ったりしない。ずっとあなたたちと一緒にいたいから。」
 私が青い空を見上げると、フレディーも同じように空を見上げた。

「ネオがね、私に言ってくれたの。雨の中で待っていたのは、君に、私に会うためだって。とっても嬉しかった。きっと天国でもネオは私のこと待っていてくれるって思うの。そうでしょフレディー。」
 フレディーはやさしく、やわらかい瞳で私を見つめてくれていた。