店の脇を抜け、止めてある自転車のカゴにバッグを入れた。
「どうしてもっと早く気付かなかったんだろう。」
 あんな素晴らしいエプロンの存在に。
「どうして、無理に取り替えそうとしたんだろう。」
 水色のエプロンが破ける瞬間が、走馬灯のようによみがえった。壊れたものはもう元には戻らない。私はもう、犬たちと会話を交わすことは出来ないのだ。楽しかったこの数日間の感情はもう何処を探しても無いように思えた。
「本当に夢を見ていただけだったのかも知れない。」
 私だけ置いてきぼりにされた気分だった。私だけ、会話に加わることができなくなったのだもの。
 それに・・・。
「そうだ、私はネオのことを攻めたんだ。ネオが言葉を話せないんじゃなかったんだ。あのエプロンをしていたおかげで、ほかの犬の言葉を聞き取ることができていただけ・・・。誰が凄いわけでもない、凄いわけでもない、そして、ネオが悪いわけじゃなかったんだ。」
 そう思った瞬間、突然ネオを抱きしめたくなった。誤りたかった。本当は大好きなのに、つまらないとか言って、意地悪なことまで言って。きっとネオは悲しかったんだ。きっとネオだって私に心で語りかけていたはずなのに。私はそれを聞こうとしなかった。