思った通りだった。
水色のエプロンをしていない時、私はフレディーの言葉も、他の犬の言葉だって聞き取ることができなかった。
「今日は土手を歩きたいって言ってたわよね。フレディー。」
 夕方の散歩で私は、フレディーの最後のリクエスト通りに、土手沿いを歩いた。
「フレディー、明日は何処へ行きたいって思うんだろう。また一緒に並んで屋根の上から一緒に海を眺めたり、あなたと沢山お話がしたいわ。」
 フレディーは振り向くことも無く、私の前をゆっくりと歩いていた。

「はい、夜ご飯。今日は特別に、ほんの少しだけ・・・。ご飯の量を増やしちゃった。うれしい?」
 だけど、もちろんエプロンをしていない私に、フレディーは何も答えてはくれなかった。
 
 お店を閉めて、裏口の鍵を閉める。
 もう二度と、声が聞けない。そう思っただけで胸が張り裂けそうな思いにさいなまれた。あんなに楽しく話しのできた友達が、何処か遠くへ行ってしまったように感じた。
 私は鍵に付いたペンダントを見つめた。
「フレディー、この数字って・・・。」
 私はもう一度、フレディーに聞こうとしたけど、そこで言葉を飲み込んだ。そんなこと、確認しなくても解ったから。わたしの耳に彼の言葉が届くことは無い。私が鍵を差し出すと、フレディーは、いつも通りにその鍵をくわえ、犬小屋にそれを隠した。
「おやすみ。また明日ね、フレディー。」