良かった、頬をゆるめて中に足を踏み入れた私はしかし、そこでコーヒーを飲んでいた男を見て固まった。


なんで会いたくないヤツには頻繁に会うんだろう、と自分の運の悪さを呪う。


「……おう」


 なれなれしく手をあげて挨拶してきた男を無視して、私は外に出た。


別の場所を探そう。最悪の場合、トイレで食べよう。


そう思った私の背後で扉が開く音がして、ガシッと肩を掴まれる。


「無視するなよ。態度悪いな」


「……北口センセイ。こんにちは、さようなら」


 掴まれた肩を思い切り嫌そうな目で見ると、先生はわらった。


「昼飯食う場所探してんだろ。入れば?」


「冗談。キス魔と食事なんてできません」


「キス魔って……1回しかしてねえよ」


 先生は心外だとでも言いたげに目を細めた。


「とにかく、入れよ。俺がいるのがイヤなら、俺は出て行くから」


 先生がそう言って腕を引き、調理室に引き込んできたので、仕方なく私は先生が座っていたところから離れたイスに座った。