「あっ…」


祈りを止めた少女がゆっくりと立ち上がると身体中から力が抜けて動ける様になった。

少女は小さく頭を下げると何もなかったかの様に円の横を通り抜けて行く。微かなパンの匂いが鼻孔を擽りながら。


「ちょっ、ちょっと待って?」


急いで彼女を呼び止めると少女は少し肩をビクつかせて足を止めた。


「何か?」


声にもなんとなく懐かしさを感じる。

控え目にこちらを振り向いた彼女は白いケープに大きな白い襟の薄いグレーのワンピースとシルバーのロザリオを身につけている。


「あんたシスター?」

「いえ、まだ修道中の身です。」

「へぇ?で、何してたの?」


クイッと親指で花壇を示すと少女は少し眉を下げてからまた十字を切った。

「燕の、燕の雛が巣から落ちて天に召されたのです、多分烏か何かが親鳥の居ない時に襲ったのでしょう。可哀想に身体中に傷がありました。実は朝から気付いていたのですが、私には大事な用事があってそちらを優先してしまいました。だから謝っていたのです…。」


今の話の中のドコに謝る必要があるのだろうか?


疑問に思いながらも円は少女の話を聞いていた。


「で?許してくれるって?」

「え?」

「つーばーめ!」


困った顔をして口元を弛めた少女は小さく俯く。


「分かりません。けれど雛は天に召されました。きっと幸せな家庭に生まれるでしょう。」


花壇の中の土がぽっこりと山になっている。中庭の花壇は表口の花壇とは違ってあまり手入れされていないので土が乾いていて固く、雑草が根を蔓延らしている。

ソコを少女は指先だけで掘り返し小さな小さな墓を作ったのだ。


「大丈夫、きっと許してくれてる。 」


何故、そんな言葉が出たのか。そう思ったのかは分からない。
ただの気休めかもしれない言葉だけど、どうしても
そう言ってやりたかった。

「…ありがとうございます」


少し目を見開いた彼女はうっすらと笑顔を向けて小さな声でお礼を言う。

小さな唇は仄かなピンク色で、熟れきる前の桃みたいなみずみずしさを感じさせた。