そんな沈黙を破ったのは、尚夏の方だった。

「ねえ、ミツ」

「何?」

軽い気持ちで返してから、気付く。
尚夏の目が、真剣そのものだってことに。
慌てて、私は、組んでいたあぐらをやめ、正座する。
「別に、そこまで固くならないでよ!」と、尚夏の方が慌ててしまうが、スルー。

フゥ、と一つ息を吐いて、尚夏は、ゆっくり口を開いた。

「……あの、さあ。今日、春と玲菜が、さあ」

そこで、詰まってしまう尚夏。
私は、言いたい事が分かってしまった。

でも、言えない。
だって、言ってしまったら……。
ぎゅっと、膝の上で握りこぶしを作って、尚夏の次の言葉を待つ。

しかし、いつまで経っても、発せられない次の言葉。

──キヨ達が戻ってくるかもしれない……。

仕方なく、私は重い口を開いた。

「春と玲菜が何?」

なるべく、自然に。軽く。でも、しっかり。

すると、尚夏が腹を括った様に、私に言った。

「春達がね、言ってた事! せ、清太が……ミツをって、話。覚えてるよね?」

私は、軽く「そりゃね」と返した。
怖くて、目線は下を向いていたけど。

「ミツ……は、私が、清太が好きって知ってるよね。でも、私、知らないから……ミツの好きな人」

そうだったっけ? と、私は、少し尚夏の方に目を向けた。

「だから、私、ミツが、もし清太の事好きならって、思って。そしたら、なんか、ミツの恋、邪魔することになるんじゃないかな? って、思って、私。

もし、そうなら、そう言って!」

そう言う尚夏は、笑顔だった。
まるで、縛り付ける何かから、解き放たれたような、開放感のある笑顔。
その笑顔は、悲しくて。

──これは、私を傷つけまいとした、笑顔なんだろう。

そう思うと、泣いてしまいそうになるから、私は、笑顔の意味を考えるのを、やめた。

その代わり、ちゃんと、尚夏への返答を考える。