私が、抗議をあきらめた時、

「はい、麦茶」

浅海さんが、キヨ兄に、麦茶の乗ったお盆を渡した。
キヨ兄はそれを受け取って、少し困ったようにキヨの方を見る。
嘆息してから、キヨ兄は、

「……じゃ、とりあえず俺の部屋で待ってて。俺ら、キヨ太んとこで着替えてくるから」

と。
よく見ると、キヨ兄とキヨは未だ制服だった。

私は頷いて、お盆を受け取ろうとする。
しかし、キヨ兄に止められた。

「大丈夫だって。今更気ぃ遣わなくても」

そう笑うキヨ兄。……気を遣ってるとかじゃないんだけども。

「早く行こーぜー」

気だるそうに言って、キヨは歩きだす。私達も、カルガモの子供みたいに、キヨの後に続いた。

遠藤家は、うちと作りがよく似ている。だから、まるで自分の家のような錯覚を起こしてしまう。
それが、安心できる要因の一つなんだろう。

階段を上って、馴染みのある廊下を見渡す。
うちより綺麗な気がするのは、何故だろう。浅海さんの手入れが、きっちり行き届いているからなのだろうか。

廊下をじぃっと見つめていると、

「何してんの? ミツ」

キヨ兄の部屋から、尚夏に呼ばれた。
「あ、はいはい」と、慌てて私も、キヨ兄の部屋に入った。
少し懐かしい香りに、またほっとする。

薄青い壁、白い絨毯、同じく白いカーテン。
ど真ん中にある、「我こそが一番である」と主張するように置かれた、四角い、木でできたテーブル。
そして、部屋の左奥にいる、小学校の時に来た勉強机と、右奥にいるベッド。

家具のレイアウトも、壁紙も、絨毯も、カーテンも、大分変わっちゃったけど。
でも、やっぱり、どことなく懐かしい。こうやって部屋に入るのは、何年ぶりだろうか。

「じゃ、すぐ戻るから」

キヨ兄が、着替えを片手に、部屋から出て行った。

「「………」」

残された私達二人。沈黙が少し重い。