「授業中です」

キヨの目の前には、数学の小山田先生。キヨが頭を押さえてるところを見ると、どうやら殴られたらしい。
いい気味だ、と、少し笑っていたら、小山田先生の視線がこっちに向けられた。

「……あなた、ノート、少しも書いてないじゃないですか」

小山田先生にジロリ、と睨まれて、思わずすくみ上がる。

「す、すいません」

「あとで、ちゃんと写しておきなさい」

「はい……」

ちぢこまって、小山田先生が去るのを待つ。
もう、白髪頭のご老人なのに……本当に怖い先生だ。
ため息をついていると、視線に気がついた。顔を上げると、

「ざまーみろ」

と、キヨの笑っている姿がうかがえた。
こいつ……殺す。
私は、小さな声でキヨを呼ぶ。

「なんだよ」

キヨも懲りたのか、少し小さな声で返してきた。

「キヨ、消しゴム貸してあげるから、窓から飛び降りて」

「なんで!? 死ねって事!?」

「大丈夫だよ、四階ならせいぜい複雑骨折だって、多分」

「多分って、お前俺の命なんだと思ってんだ!」

「んー……この世に必要ないものベスト10には入るわね」

「悪かったよ! 俺がお前になんかしてたら謝るから!」

「じゃあ死んでくれ馬鹿キヨ」

「くそう……! 尚夏あ! お前の妹どうにかしろよ!」

「えー、無理ー。私だって口喧嘩勝てないしー」

尚夏は笑いながら拒否。賢い選択だ。
ちなみに、私は口喧嘩で負けた事はない。

「ほら、早く飛び降りなさい。早くしないと授業終わっちゃうでしょ。意味なくなるでしょ」

「なんかよく分からんが、授業あと一分で終わるんだから我慢しろよ」

「え、やだ、待てない、無理」

「何コイツわがまま!」

キヨがそう言ったと同時に、

「だから、授業中ですと何度言えば分かるのですか」

と、小山田先生のお叱り。
私とキヨは、小言を言われ続けた。一分程だろうが、私には十分くらいに感じられた。

そして、私が待ち望んでいたチャイムが、悲しく鳴り響く。