「八月は引きこもる! 目標!」

キラキラした目で宣言する私。後から尚夏の、「それ、堂々と言える事じゃないよ?」という冷ややかな視線を感じるが、気のせいだろう。
私の宣言を聞いて、キヨ兄が頷く。そして、ミントの香りがしそうな、爽やかな笑顔で。

「よし、んじゃ、八月は映画でも行こうか」

「うわあ、目標無視されたー」

後で尚夏が笑う。こんなやり取りは、私とキヨ兄の間では、日常茶飯事である。そして、私の好きな事でもある。
そんな大切なやり取りに、水を差してくる馬鹿が一人。

「なら、俺はプールにでも誘おう。よしミツ、八月はプール行くぞ、プール」

「それは、私がカナヅチと知ってのお誘いでしょうか」

「あ、すまん。よし、なら海に行こう」

「すいませーん、誰か金槌持ってきてー。金槌でコイツの頭蓋骨割ってやる」

「ほらミツ、金槌」

キヨ兄が、どこからか金槌を持ってきてくれた。
生命の危機に瀕したキヨが、慌てて尚夏の後に隠れた。
若干顔を赤くしながら、尚夏が命乞いをし始めた。

「ちょっとした冗談なんです、命だけはっ、命だけはお許しを~」

なんかのドラマを彷彿とさせる台詞。しかし、私はそんな命乞いを無視し、金槌を握り締める。

「そこを退け、小娘。そやつは、ワシが始末する」

「やめてくだせえ、やめてくだせえぇ……」

ヤバイ、なんかノってしまった。しかも、尚夏もノリノリだ。
それを見て、私はニヤリと笑う。

「聞き分けの無い小娘だ。貴様は、何故このような男をかばう」

私の言葉に、尚夏がの顔が赤くなり、一瞬、返事を躊躇った。
しかし、すぐに普通の表情で、演技を続ける。

「息子を守るのは、母親の役目でごぜえます……」

「息子!? 息子なの!? 俺!」と、キヨが吃驚しているが、尚夏は何も答えなかった。私に不敵な笑みを見せ、私の台詞を待っている。
私が、口を開こうとしたその時──……

「ちょっと、玄関にたむろしてちゃ邪魔だよ。さっさと退きな! ……あ、蜜香ちゃんに尚夏ちゃん! いらっしゃい!」

茶色い、くるくるとした毛先の髪の女性が登場。