「あ、キヨ兄」

私がそう言ったと同時、ひょこっと後から現れたのは、キヨ。途端に、尚夏が笑みを零す。

「お、来てたのか。晃すげーな、マジで当てるとは」

「? 予知能力でもついたの? キヨ兄」

私が訊くと、キヨが笑いながら、

「晃がな、お前の声がするとか言って玄関行くからさ。俺も半信半疑で付いて来たんだけど、まさかな」

と答えた。

「バッ……! お前、変な事言うなよ!」

キヨ兄が、扉を閉める。耳を澄ますと聞こえてくるのは、キヨの悲痛な叫びのみ。

「……私の声がでかかったせいで……すまんキヨ」

「……ミツ、本気?」

「ん? 何が?」

「いや……まあ、良いけどね。可哀想、晃……」

苦笑する尚夏。? 可哀想なのは、キヨなんじゃ……。まあ、いっか。
しばらくすると、再び玄関が開く。

「ごめん、お待たせ」

爽やかスマイルのキヨ兄。しかし、その背後には、ボロ雑巾のようになったキヨの姿。……一体、どんな惨劇が起こっていたのだろう。想像もつかない。

「清太、生きてる?」

尚夏が、奥にいるキヨに呼びかけると、かろうじて、「おう……」という声が返ってきた。

「まあ、とりあえず上がってよ。勉強するんだろ?」

まるで話を逸らすかのように(っていうか逸らしたな、絶対)、キヨ兄が言った。
お言葉に甘えて、私達は、「おじゃましまーす」と、遠藤家へ上がる。

「涼しい……!」

「第一声がそれか」

思わず漏れた私の呟きに、キヨ兄が笑った。

「だって、すごい暑かったんだよ!? 家出るの躊躇ったくらいだし!」

「お前、こんくらいの暑さでヘバってたら、八月外出れねーぞ」

もっともな事を言うキヨ兄。しかし、暑いもんは暑いのだ。