「…あのぅ、何かご用ですか?」
なるべく自然に声をかけた
つもりだったけど、ちょっとだけ
声が上擦った。
女性は、さっきまで怪しいオーラを
全身から発していたくせに、
声をかけるとかなりテンパった様子で
しどろもどろになりながらも
窓口に用事があったと言う。
それなら、外で見張ってないで
中に入れば良かったのに…。
やっぱり銀行強盗目当て?なんて
勘繰りをいれながら、実は本当に
お客様だったら困るので
丁寧にATMと窓口の取り扱い時間を
説明しておいた。
「ありがとうございましたぁ~」
頭を下げて去って行く女性の姿が
完全に見えなくなるまで確認してから
銀行の中に戻った。
椅子に腰かけて、はぁ…と息をつくと
隣の窓口で仕事をこなしていた先輩が
声をかけてきた。
「どうしたの、八木さん。
さっき外で誰かと話してなかった?」
「ぁ、はい。お客様で、
窓口の営業時間について説明してました」
「最近の若い人って銀行の窓口の
営業時間も知らないのかしら。
まったく、最近の若者は常識ってのが
なくて困るわよねぇ」
ねぇ、と同意を求められても…
社会人になって日が浅い私は
どちらかというと“最近の若者”に
カテゴリーされてしまうと思う。
そんな世間話を聞いたからか、
私の後ろで作業していた同期が
話しに加わってきた。
「そういえば…聞きました?
小泉先輩の噂」
「小泉君の噂ぁ?何よ、それ」
先輩が興味津々に乗ってきた。
私は小泉先輩の噂や話しには
なるべく関わらないようにしていたけど
この流れでは聞かなければならない。
もし私のせいで良くない噂が
流れていたらどうしよう…
中小規模の地方銀行とはいえ
一つの支店は小さい。
周囲にはバレないように
気を使ってきたつもりだけど
もしバレてあらぬ疑いがかけられたら
どうしよう…
そんな恐怖が胸を支配する。

