黎緒先輩のズルいところだよね。
そうやって自分の意見をはぐらかすのって。
だいたい日本語が卑怯すぎるんだ。
フツーとかビミョーとかいう曖昧な言葉があるから。
「その楽しそうな表情からして、けなしてるんだと思います」
「これでも、けっこう褒めてるつもりなんだけど、実際」
絶対嘘だ。
騙されないんだから。
ここで褒められたことに対して調子乗ったら、相手の思うツボ。
「信用されてないなんて悲しいなぁ」
言葉だけは残念そうにしてるけど、顔は笑ったまま。
そんなことだろうと思ったよ。
黎緒先輩があたしの一言で落ち込んだり、傷ついたりするなんて想像つかないし。
どこか無敵オーラを発しているよね、この人。
なんか、ものすごく悔しい。
「すみません、蘭さんですよね?」
「へ?」
睨みをきかせていれば、突如背後から呼びかけてくる。
最近聞いた声だ。
「奇遇だね、木仲さん」
振り返るあたしより先に、黎緒先輩が口にした。


