「いえ、わかりませんが……」
「あちこち走り回ったんですよ!
先輩、教室にいないんですもん」
あぁ、牡丹が後輩からお説教されてるわ。
あたしを迎えに来てくれちゃったから、そりゃ自分のクラスにはいないはずだ。
どうりで、後輩さん方の息が切れてたわけね。
「ゆずゆちゃん……」
躊躇いがちに名前を呼ばれる。
牡丹の中の優先順位は、なんとなくだけど理解してるつもり。
おそらく、弓道部に顔を出したいんだろう。
ただ、奏斗も風音も行方知れずなメンバーがいるからラブを気にしてる。
ひょっとしたら、あたしが独りぼっちにならないように気遣ってくれてるのかも。
……なんて考えは、ちょっと自意識過剰だけど。
「行ってきな」
笑って返してあげれば、申し訳なさそうに相手も笑った。
「すみません。
明日はそちらを優先しますから」
「うん」
あたしたちの会話が終わると、そそくさ後輩さん方が牡丹の腕を引っ張って。
人気者だなぁ、まったく。
ちょっと微笑ましい。
後輩に慕われて、輪の中心で笑顔を見せる牡丹。
弓道部での牡丹は、あたしの知らない顔ばかり。
いつも近くにいてくれて、いつも味方をしてくれる。
それでも、どこか遠い存在な気がして切ないと感じちゃうの。
たぶん、それも全部あたしの独占欲が大きいせいなんだろう。


