目を閉じれば夢の世界。
もう少しすれば、部活の時間。
だからそれまで、お願いだからあとちょっとだけ眠らせて。
色を失い始めた現実から、逃避させて。
「蘭、授業終わった」
「寿羅、うるさい」
「人が親切に起こしてやってんのに、その態度かよ」
机に顔を伏せていたあたしは、体勢を変えずに文句を返す。
「別に行かなくていいんじゃねーの」
「奏斗は?」
「知らねーよ」
奏斗は、もう帰っちゃったのだろうか。
同じクラスで、毎日一緒にいて話してるのが当たり前だったのに。
「奏斗は?」
「だから知らねーっつーの!」
今日はまったく言葉を交わしていない。
あたしのせいだ。
あたしが、隠し事をしてるみたいな態度をとったから。
仲間なんていらないって言ったから。
「どうしよう。
このままじゃ、みんなバラバラになっちゃう」
きっと話しかければ戻るんだろうけど、無視された時を考えると話しかけられなくて。
お互いに避け合って過ごす日が数日続いている。
それは風音に関しても同じで
「箕笙がまた、てめーの名前叫びながら窓ガラス破壊したってよ」
非日常が、日常的になってきている。
「何枚目?」
「知らね」
風音、怪我してないといいけど。
「ゆずゆちゃん、」
ようやく顔をあげて伸びていると、教室の入り口付近から牡丹の声。
きっと、あたしがいつまで経っても部室に行かないから迎えに来たんだ。