「あのとき何処に行こうとしてたの?あんな土砂降りの中、傘もささずに。」
美香は何も答えることはできなかった。
「そっか。話したくないなら、無理に話さなくていいから。君は学生?まあ、今日は日曜日だからゆっくりしていきなよ。でも親にはちゃんと連絡しなよ。うちの電話使っていいから。おっと僕、仕事遅刻しちゃうからそろそろ行くね。」
そういうと男はそそくさと家をでようと玄関で靴を履く。
男が振り向いて美香に言った。
「そうだ。僕は琢海(たくみ)。」
そう言ってドアを開けた。
「待って!」
美香が呼び止める。
「あたしは美香。船橋美香だよ。」
琢海はまたあの笑顔で返す。
「また夜帰ってくるよ。」
そう琢海が言いそのまま美香と部屋をあとにした。