ふと、目が覚めた。


「…」


重い体をゆっくりと起こし、周囲を見渡した。


目に写ったのは、真っ白だったと思われる壁や床、天井に飛び散った、おびただしい量の血と、床を埋め尽くすほどの死体の数々。

「…」

どうしてこんなことになっているのか。
なぜこれほど大人数の人たちが死んでいるのか。
なんで自分も大量の血を浴びているのか。

そもそも、ここはどこなのか。
見たことのない、初めて見る部屋に、たった一人で…。

…。

………。

……………。


なんで私は、私が誰なのかもわかんないの?

なんで私は…



「………なんで、何も覚えてないの…?」



そう呟いた瞬間、部屋の扉が勢い良く開いた。

「…!?」

驚くことしかできない私は、恐怖に身を固くした。

部屋に入ってきた白衣の男は、私の姿を見るなり、歩み寄ってきて、言った。

「よく目覚めてくれた、カレン!」

「カレ、ン…?
それが、私の名前なの…?」

男は、私のことを“カレン”と呼んだ。

でも、そんなことも覚えてない。

初めて聞いた名前で、初めて呼ばれた名前だった。

私が男に尋ねると、男は、酷く落胆したようだった。

「なんてことだ…

まさか、記憶がなくなっているなんて…」

頭を抱え、何やら独り言を言い出す。

「最後にあれを投与する前までは、きちんと記憶があったのだ。
ならば、その投与時か、または実験中か、はたまた実験後か…
何にせよ、データは取らなければなるまい…
ならば早急に準備をせねば…」

そう言って部屋を出ていこうとする男を、私は腕を掴んで引き留めた。

「ねぇ、どうして私は記憶がないの?
なんで私はこんなところにいるのよ…
私に一体、何をしたのよ…!」

まるですがるように尋ねるが、男は素っ気なく返してきた。

「説明はあとだ。
先にデータの収集を行わなければならない。
君は大人しく、モルモットになっていればいいのだ、カレン」

その瞬間に、何かが、私の中で吹っ切れた。