どうやら私の持っていた鉛筆が、床に落ちて転がっていってしまったらしい。
私は、ふとそれに気付き、拾おうとした。
けれど、手を伸ばしても届かず、とりにくい場所にまで転がっていってしまった。

「なんであんな所に転がっていくかな……」

私は、ため息をつき、再度問題集に目を落とした。その時、ある一人のスーツを着た男性が、鉛筆を取って私の目の前に差し出した。

「これはあなたのですか?」

私は、問題集から目を離し、そちらに顔を向けた。
その瞬間、細身の長身、よく通る自分好みの声に胸の鼓動が高鳴った。