本当に謎。

佐伯諒。


『――千麻!』


あ。

そういえば。

意識が飛ぶ寸前、誰かが私の名前を呼んでいた気がする。

男の人の、声だった。

あれは――



「千麻!」

「へ」


呼ばれてハッとすると、目の前に樹の幹が。


「~~っ」


――やば!

ぶつかる!



「――?!」



覚悟を決めて目を瞑った筈なのに、いつまで待っても痛みは来ない。

代わりに――



「……っセーフ…」



――後ろから腰を引かれ、誰かの声が頭上から聞こえた。


……ううん。


この声には聞き覚えがある。





「……佐伯諒?」