「あいつのことなんて、もう忘れろよ」


高鳴る鼓動を必死に抑えるかのように目を閉じた。

一瞬、レイの指先がピクリと動くのを見た。


「…俺じゃ、ダメなのか?」


サーサーと波の音が聞こえる。


「…流」


子供を叱るような声で、俺の名前を呼んだ。


そうだ。

どうせ俺は、弟のようにしか見られてないんだな。


こうやって抱きしめたって、レイはドキドキしないだろうし、戸惑ったりしない。


こんなに、


こんなにスキなのに…。



俺はゆっくりと体を離した。


「…ごめん。今の忘れて。本当なんでもないから」


「流…」



呼ぶな


呼ぶな



スキでもないくせに、そんな顔するなよ。


切なそうに、レイは顔を歪ませた。



「あたしは、あいつのこと、忘れるなんてできないよ」



分かってる、そんなことぐらい…。