「…電話の用件は?」
「……家に帰ってこい。そしたら…たくさん可愛がってやる。帰ってこなければ……俺の兄貴を………殺す」

陸はたくさんの涙を零した
陸の肩が、小刻に震えてる。

殺す?

「…陸。お兄ちゃんってどんな人?」
「……植物人間。
事故にあった時、打ち所が悪くてっ……それからずっと息はしてても、目を覚まさないんだっ……」

……植物人間。
それで、殺すってか?
ふざけてんじゃねーよっ!!!

必死に生きようとしてんだよっ!!!
必死に息をして…生きようとしてんだよ!!

あたしみたいにっ、命が限られてても必死に生きようとしてる奴なんて、この世に何千人…何億人といるんだよっ!!!!

「陸。大丈夫。…陸は戻らなくていい」
「えっ……でもそしたら兄貴が…」
「大丈夫。あたしが許さねぇ」

あたしは陸の目を真っ直ぐに見た
陸はあたしの肩で、泣いた

あたし達の周りを、1匹の蝶がヒラヒラと周った

「……この蝶、お母さんなんじゃない?
きっと、陸の事をどこかで見守ってるんだよ」

陸は蝶にゆっくりと手を差し伸べた
蝶は、陸の手を1回転して陸の親指に止まった

陸は涙を零しながら、あたしを見てゆっくりと微笑んだ
あたしもゆっくりと微笑んだ