目を覚ますとイブが横に座っていた。
「自転車に乗れるようになったんだね」
 イブは嬉しそうに笑っている。
「はい」
「チェーンが切れていたから取り替えておいた。アタイの母ちゃんの形見のチェーンだけどアダムにあげる。あと、敬語はやめて。アタイとアダムは友達なんだから」
「はい」
 私はまだ寝惚けているのか、どこでイブと友達になったのか覚えていない。ずっと自転車を走らせていただけなのに。チェーンに至っては何の話かまるでわからなかった。それよりも気になることがあった。
「もう怒ってないの?」
「何のこと? もう忘れたよ。アタイはすぐ忘れるんだ。自分の歳も忘れるぐらいだからね。アダムは自転車に乗って風と友達になったでしょ。風はアタイの友達、だから風と友達のアダムもアタイの友達だよ。ラブ&ピース!」
「風さん、ありがとう」思わず口に出た。
「どういたしまして」
 風は応えた。
 まだ下がったままになっていたイブのサドルを私が直してあげた。ずっと立ちコギでここまで来たのだろうか。
「追いかけてきてくれたの?」
「寝惚けたこと言わないで。アダムがアタイを追いかけてきたんでしょ」
「そっか。じゃあサドルを交換しよう」
 私は最初に言えなかった最も重要で、最も伝えたい言葉を伝えた。
「いいわよ」
 私の不自然な提案に、イブはそれが遠い日の約束だったかのように優しく自然に応えてくれた。

 そして私とイブは一つになった。その後にサドルの交換をした。サドルを交換し終わってすぐ、イブは女の子を生んだ。イブは両手でしっかりとその子を抱えていた。
「その子は僕とイブの子?」
「もちろん!」
「じゃあ一緒に暮らそう」
「はい」