こうして私は二代目を襲名することになった。二代目自転車屋として初めて店に立った日にまずやったことは、私の自転車に付いているイブのサドルをおもいっきりバチン！　と叩いたことだ。サドルの下に付いている小さい羽根が少し大きくなった。そんな気がしただけかもしれないが。
　気が付くと目の前に一人の男が立っていた。
「この店で一番速い自転車をください」
　私はイブと赤ちゃんに相談して、丸一日悩んだ。
　次の日、やってきたお客さんにいくつか質問をした。
「なぜ一番速い自転車なのですか？　普通の自転車では駄目なのでしょうか」
「あなたもノストラヴァリウスの予言をもちろん知っていますよね。様々な捉え方が出来ますが、私はこう理解したのです」
　私はそんな預言者を知らなかったが、そのお客さんが言うにはこういったことらしい。
『人類が滅亡の危機に陥った時、救ってくれるのは自転車だ。自転車に乗って風を感じ、己と風が一体となって走れた時、あなたの前に女神が現れるだろう。その女神は子を宿し、人類を救うだろう』
　これを聞いた私は馬鹿らしくなり、はァ、と間の抜けた返事しか出来なかった。
「私の周りにはもう女性はいません。女性どころか最後に人と会ったのはもう二年前です。早く女性を見つけて子供を生んでもらわないと人類が滅亡してしまいます」