男に車で送ってもらって自分の小さなマンションに到着した。
慣れた部屋のほうが格段に気分が安らぐ。
でも、あれ?
私、なにか忘れ物してないか?
ドアの前に立ち尽くして考える。
なにか、変だ。
忘れ物?
あの男の部屋に?
でも、そのなにかがわからない。
バックを開けて確認するけれど、特に違和感はない。
…でも、私はあの男の名前すら知らないじゃないか。
考えたって結局、元には戻らない。
忘れるなんて、結局それだけの物だったってことだ。
私はドアノブに手を掛けた。
別に、もういいや。
何か、の捜索は諦めて軽くシャワーを浴びる。
熱い湯が身体に降注ぐ。
全く妙な体験だった。
普段だったら記憶がなくなるほど飲まないし、ましてや男の部屋になんて入らない。
一人で飲むことだってあまりない私が、お持ち帰り、なんて冗談だと思う。
キュ、とシャワーを止めてびちょびちょのまま風呂場を出た。
引っ掛けてあった真っ白なバスタオルを頭から被って、冷蔵庫を開ける。
そこでまた、あれ?と思う。
「水しか入ってない…」
私、料理はするんだけど。
見事に必要最小限の調味料と酒とミネラルウォーターしか入っていない。
まるっきり自炊している様子がないほどに。
いつ使い切ってしまったのだろうか。
めんどくさいな。
買い出しに行かなくちゃいけない。
適当なボトルを空けて喉を潤した。
さっきコーヒーを飲んだけれど、何故か喉は渇いていた。