「…」


鏡の中の自分をじっと見つめる。



でも、見つめ返してくる女は変わらない私。


よく見るとおでこのところが少しカサカサしているが、それは単なる乾燥にすぎない。

冬の湿度の低さを甘く見ていた私がわるい。


蛇口を捻ると痛いくらいに冷たい水が、勢いよく流れ出た。
両手ですくって顔を乱雑に洗う。


もう一度鏡を見ても、やっぱりそこには変わらない私だけだった。




なんにも、変わってない。



私は。





店長の言葉で、ゼンのことを思い出した。



あの夜以来、自分のことが日に日によくわからなくなってきている。



考えなきゃいけないことは、たくさんあるはずなのに、何だか思い出せない。



いや、



・・・・・・・・
思いださないように、ストッパーが掛けられているみたい。





でも、何に…――?








ズキンッ





「ぁっ…」





突然、酷い頭痛に襲われる。

こめかみ辺りにまるで鈍器で殴られたような激痛がはしった。




なに、コレ…?



私はへなへなと崩れ落ちる。


全身からぶわりと嫌な汗が吹き出す。


まだ濡れている髪からぽたぽたと水滴が垂れて、肩や胸に落ちた。

そのたびにぞくり、と背筋を何かが這うような悪寒がした。




痛い。


なんで?!





「ゼン…」





こんなときに、真っ先に頭に浮かぶのは、あのキレイな男。



馬鹿だよ、シノ。



アイツは手に入るような男じゃないんだよ。



なのに、霞む頭で響くのは、ただ一人の名前。




なんて、憐れなの。




痛い、




頭が、割れそうだ。



痛い、痛い!!!






「ゼン…っ」






そして私は意識を手放した。