…ありえない。



勝手に来て、勝手に帰って、おまけに私の手料理まで残しやがって…!



私は怒りにまかせて近くのクッションを投げてみた。

情けない音をたてて転がるそれを見て、余計に苛立った。



ありえない。




仕事とか言って、女の所に行くくせに。

まあ、実際仕事なんだろうけど。


私は苛立ちのもうひとつの原因に敢えて気付かないふりをした。




ヤツは、


ゼンは、どういうつもりなんだろう。




私に触れるわけでもなく、そばにただいるだけ。


他に美味しいご飯を奢ってくれるような女ならたくさんいるだろうに、食べるのは私の手料理。

彼に居場所を提供する人なんてうんざりするほどいるだろうに、私の家に通う。



どういうつもりでここまで来ているんだろうか。

何が、目的なんだろう。


そういえば、ゼンについては、名前と職業以外よく知らない。


家はこのあたりだと言っていたけど、あの時は車で送ってもらったためよくわからないし。

もしアイツがこの家に来なくなったら、もう会うことなんてないんじゃないか?

だとしたら、私はどうなるのだろう。






私は自分の予想に呆れて首を振った。






ばかだ。


ばかだよ、シノ。



あんたはあんなよくわからない男に、執着なんてしないでしょ。



どうでもいいじゃない、ゼンなんて。


深入りしないほうがいい。



自分にそう言い聞かせて、私は料理を片付けはじめた。



そう、




深入りしないほうがいい。