でも、私は知っている。
その漆黒の瞳に、時々悲しみが過るのを。
まるで発作みたいに、チラリと。
ほんとに、一瞬だけれど。
それでも、わかる。
底知れない悲しみが、彼の中に居座っていることが。
そんなもの、私が埋めてあげたらいいのに。
いつもは淡白で、冷静な男だからこそ。
私にだけは全部見せてくれたらいいのに。
全部、受け止めるのに。
そう思いながら、キスを繰り返す。
腕を伸ばして、その温もりを求める。
するとまた意地悪に笑って、誘惑をするのだ。
彼の作り上げる、魅惑的な芳香で。
まるで虫を惹きつける、甘い甘い花の香りのような。
“楽園に行こう”
いつだったか、そう呟いた彼が居た気がする。
いつだったか、なんて覚えていないけれど。
でもそのころから私は彼が好きで。
どうしようもないくらいにいとおしくて。
だから、無意識に口に出してしまった。
「…どこへでも、行く」
すると、彼の動きが止まった。
驚いたような、そんな表情を浮かべて私を凝視する。
今にも泣きだしそう。
そして薄い唇から、私の名前が繰り返し発っせられた。
何度も。
私の存在を確かめるように。
不思議に思っていると、強く抱き締められる。
痛いくらい、強く。
でも、大切にされている。
なんとなくそう感じた。
「…二人で、な。………どこへでも」
唸るような低い声。
官能的なそれに心臓がどくりと動いた。
耳元を擽る甘い言葉が、本格的に私を狂わせていく。
体が熱を帯びて、彼がもっともっと愛しくなる。
この熱情が、どこからくるのかなんてどうでもいい。
私は彼の首に腕を掛けた。



