「前者か後者かと聞かれたら…まあ七割後者だな」
「意味わっかんねえ」
「彼女を助ける薬ってことさ」
「助けるったって、どうするんだよ?」
俺は冷静を取り繕い、淡々と問いかける。
本音は、欲しくてしょうがない。
どんなにいかがわしくても、たとえスガヤに頭を下げてでも、彼女を救いたい。
藁にもすがりたい、とはよく言ったものだ。
どんなものでもいい。
今の状態から抜け出せるのならば。
もう一度、志乃が笑うのならば。
「要約してしまえば、記憶障害を引き起こす薬だ。もちろん表には出回っていない。もっと言うと、俺の組織の奴しかまだ知らない代物だよ。最近できたばっかりだ」
「ってことは、志乃で試すのか?」
ならば、断る。
どれだけ魅力的であっても、彼女に傷がつくようなものならば意味がない。
「いや、安心しろ。もう実験は済んである。結果は上々だったさ」
「そうか…」
「ああ。しかも記憶障害といっても、全部の記憶を消すわけじゃない」
「じゃあ何を消すんだ?」
「この薬の一番の利点さ。…消せるのは、本人が望んだ記憶だけだ」
記憶を、消す薬。
それも本人が消したいと思ったものだけ。
もし、志乃がそれを使ったならば、どこまで忘れるのだろうか?
あの事件のあった日?
スガヤの存在?
グリモワールという店?
「まあ、人の感情なんてわからないからな。どんなにいい記憶でも、薬を使ってみれば何を忘れているかなんてわからない」
「思い出すことは、あるのか?」
「強いショックなどがあれば、な。そこはもう普通の記憶喪失と一緒だな」
記憶喪失。
それで、彼女は救える……?
「欲しいか、善?」
もちろん、俺の答えは決まっていた。
こぶしを握る。
帰ってきてほしい。
こんな、人形みたいな姿ではなく。
俺を見て笑い、今度こそ。
今度こそ、守り抜く。
「ああ…欲しい」



