母親はテレビに夢中で顔も合わせず適当に冷蔵庫の場所を指差した。
「…ありがと…」
たいして気にしなかった。いつものことだ…。

テレビからはいつものニュース番組が流れていた。
いつも目が止まったニュースだけ見て自分の部屋に戻るのが習慣だ。

「…バラバラ殺人の容疑で指名手配中の上村容疑者の時効が成立しました…。バラバラ殺人の容疑者が時効を迎えるのは、なんとここ二年で8人目です…。警視庁は………」

世の中…腐ってやがる…
時効なんて廃止すればいいのに…




「…んでどうだったんだ?」
父親がビールを飲みながら恐らく無理矢理質問をしてきた。
「……あぁ…受かったよ…。来週の土曜日からなんか泊まりがけで働かなくちゃいけないけど…」
「…あれ?ここから20分ぐらいなんでしょ?なんで泊まるの?」
父親と母親が少しこちら側に顔を向けた。妹はテレビに夢中だ。
「…う~ん…なんかあまり口外されたくないことがあるらしいから俺も今全ては言えないけど…まぁとりあえず1週間に1回は帰ってくるよ!」
時給のことについて話せる訳なかった…。
「…そう…。」
「…優、そこはホントに大丈夫なのか?」
父親が真面目に話し始めた。一応こんな父でも自分のことを気にかけてくれているようだ。
「……いや居酒屋だから働くのは深夜だけど普通に接客するだけだから大丈夫だよ。」
「…ならいいが、危なくなったらしっかり逃げてくるんだぞ!!」
「……はい…。」
「…お兄ちゃんなら大丈夫だよ!今は居酒屋だとしても結局やること同じだもん。」
聞き耳をたてていたようで妹が俺のフォローに入ってくれた。