キミが刀を紅くした


「邪魔したな。また伺いに来るかも知れんがその時は悪いが――」


「分かっております。お仕事ですもの、私は疑われても仕方ありませんわ。道中お気をつけて下さいまし。瀬川さんもどうか」


「はい。俺までご馳走になってすいませんでした。ではまた」



 俺は街へ行きながら脅迫状の事を考えた。あれが来たのは西崎龍之介が死んでからだが――殺される前に飛脚に頼む事は出来る。

 やはり犯人は西崎か。彼の妻、現在の沢田露子も怪しいと思っていたのだが、どういう訳か決定的な証拠がないのだ。欠けている。

 俺は露子が犯人だと思っていたのだがな。勘が鈍ったのだろう。



「土方さん、これから何処へ?」


「吉原と大和屋に話を聞きに。話の裏を取るのは体裁として必要なんだ。とくに今日は――誰かさんが付いてきているみたいだから」


「誰かさん?」


「幕府の目付けだろう。犯人は分かってるんだから適当にふりだけして帰ることにするさ」



 瀬川はそうですか、なんて言って自宅へ帰って行った。そういえば彼は何の仕事をしているのか。

 仕事以外で会わないから、未だに彼の事はよく分かっていない。


 大和屋の鍛冶屋へ向かった俺は途中で進路を変えた。嫌な予感しかしないが叫び声が聞こえたのだから行かないわけにはいかない。



「何事だ」


「あれ、トシじゃないか」


「吉原か。何だこの騒ぎは」


「あぁ、うん。実はあそこで掛け軸の即売をやってるんだけど、うちの京さんが百人目のお客って事で……喜んでたんだよね」


「じゃあ今の叫び声は」


「嬉しくて叫んだんだよ。京さんあの作家の掛け軸が好きだから」



 俺は露店商と掛け軸を眺める女に近付いた。露店商は俺を見てばつの悪そうな顔をする。だが根っからの悪人ではない様に思い。

 俺は腰の刀に手を掛けようとして違和感に気づいた。瀬川に刀を預けたままだな、彼も常に刀を手にしている男だから気づかなかったのかも知れない。あぁもう。



「商売の許可は取ってるか?」


「い、いえ」


「なら違法だ。すぐ片付けて頓所まで来てもらうぞ。悪いがあんたも買い物はまた今度にしてくれ」