キミが刀を紅くした


 小道を進んだ先にあったのは、小さな広場だった。よく辺りを見渡すと島原の奥まで来ていたらしい。木々に囲まれる様な形で作られた広場はまるで知る人ぞ知る隠れ場所の様な存在だった。旦那はその真ん中に立ち、なんと腰に差していた刀を抜く。

 その所作は見とれる程だった。



「手合わせしろ、沖田」


「突然ですね」


「お前もどうせやる事ねぇんだろ」


「も、って事は旦那も?」


「まあな。勝手に動いたんじゃ村崎に怒られちまうから。俺は動きたくて仕方ねぇのに」



 俺は刀を抜いて旦那に近寄る。一歩一歩進むに連れてその速さを上げて行き、旦那の間合いに入る頃には俺は走って旦那に斬りかかっていた。旦那の強さは夜帝の時に少し見た。雰囲気や普段の立ち居振る舞いからは想像出来ない男だと言う事も心得ていた。この人は強い。それは十分身に染みている。

 だから下手な小細工はしなかった。


 だがまあ旦那は強い。俺が刀を振っても全く隙なんてものを見せてくれない上に、俺の太刀は全て読まれている。旦那はまだ俺に攻撃してこないけれどその一振りはどんなに重いのだろうか。少しだけ楽しみだ。



「お前楽しそうだな」



 旦那がそんな事を言う。



「人を殺すの、嫌いじゃないだろ」


「そう、見えますか」


「あぁ。村崎と一緒だ」



 その名と共に旦那が構えを変えた。

 逆手に持ち変えて黒い刃を俺に見せる。美しい刀が無駄のない弧を描いて俺に襲いかかってきた。俺は自分の腰辺りでその刀を受け止めたけれど、その重さは想像を越えていた。


 身体の芯まで来る衝撃。まるで背後から予兆もなく思い切り体当たりされたような感覚だ。しかも三人ぐらいから一気に。あの細い腕のどこにそんな力が隠れていたのか。

 俺は腰を落とし、両足を地面に食い込ませる勢いでそれを堪えた。旦那はにやりと笑ってもう一方に持っていた鞘を俺の首めがけて振ってくる。俺はそれを避け、刀を握る手に力を込めた。



「お前、本気出したら俺より強いだろうな」


「なーに、言ってんだか」



 俺は旦那の懐に入り込み、首目掛けて刀を下から勢い良く振る。勿論旦那は焦ったりなんかしてくれない。だから俺は刀を持った右手を下から、鞘を抜き取った左手で上から旦那を殴り付けた。

 すると旦那は海老のように体を引き抜いて低姿勢のまま器用に着地した。なんて人だ。



「お前ほんと、似てるぜ」


「瀬川の兄さんにですか?」


「あぁ。俺の攻撃をすぐ真似する所とか、人の殺気に当てられて全力で殺しに来る所とか全部そっくり。まあ、俺はお前を守りたいとは思わねぇけどな。そこは別もんだ」



「旦那、瀬川の兄さんを守ってるんですか」


「出来ちゃねぇのは知ってら」



 旦那は刀をまた構えた。