キミが刀を紅くした


「話は終わったか?」



 全てを見越していたかの様な合間で大和屋の旦那と吉原の旦那が花簪に帰ってきた。懐を暖めた吉原の旦那は土産まで持っている。それを中村の姉さんに手渡すと、吉原の旦那は愛想よくにこりと笑って見せた。

 中村の姉さんの話を聞いていたあとでその顔はどうかと思うのだけれど。いっそ中村の姉さんについて聞いてしまおうかとも思った。勿論、聞かなかったけれど。



「終わった。そっちは?」


「終わった。紅椿についての算段は一応、服部と慶喜殿以外の全員が知ってる事になったな。答えはともかく」



 大和屋の旦那はそう言ってから人差し指で瀬川の兄さんを呼んだ。兄さんは首を振る。阿吽の呼吸と言うのだろうか。言葉にしなくても分かると言った様なものだ。だけどそれは吉原の旦那と中村の姉さんも同じ事。土方さんと近藤さんみたいな感じ。多分、服部の兄さんと将軍様もそんな感じなのだろうな。

 俺はその様をぼーっと眺めていた。すると、瀬川の兄さんが俺の顔の前で手を振る。



「沖田さん」


「あ、え?」


「俺はもう少し丑松殿と中村殿にお話をしなければいけませんが、大和屋はもう帰るみたいなので。一緒に帰ってやってくれませんか?」


「おい、頼んじゃねぇよ」


「大和屋が寄り道をしないように見ていて下さい」


「はあ、それは構いませんが。俺は瀬川の兄さん家に帰ってもいいんですか?」


「構いませんよ。勿論、新撰組に帰っても」



 俺は首を振った。さっきの今で新撰組にすぐ帰れる訳がない。近藤さんは心配してくれているらしいけれど、俺は土方さんの方に合わす顔がない。



「もうしばらくだけ世話になります。兄さん」


「はい。あぁ、丑松さん、そういえば今朝」



 瀬川の兄さんが忙しなく世間話を始めた頃、大和屋の旦那はさっさと花簪を出て行ってしまう。中村の姉さんに見送られて俺はその後を追った。

 大和屋の旦那は黙って町を歩いた。俺も何も話さなかった。考える事があったからと言うのが一番の理由かも知れない。俺はまだ揺れている。心は決まっているはずなのに。



「沖田」


「何ですか?」


「俺は寄り道するが、お前も付いてくるか?」


「寄り道しちゃ駄目なんじゃないんですか? 瀬川の兄さんに怒られますよ」


「怒りゃしねぇよ。いいから来い」



 大和屋の旦那はふらっと小道に入ってしまう。俺は急いでその後を追った。