キミが刀を紅くした


 俺は守られるのが何より嫌いで、心配されるのもあまり好きじゃない。だけど瀬川の兄さんに言われて少しだけ自覚した事がある。俺はどうしてか、土方さんを守りたかったという事だ。



「毎日探してるんだが、居なくてな。お前も中村も、総司が何処にいるか知らんか?」



 華宮さんに紅椿が来て、俺が受けたのは土方さんを新撰組から出したくなかったから。あの人が新撰組を出たらきっと新撰組は壊れるし、土方さんだって壊れてしまうだろう。

 守る大事な物がなくなったら土方さんは自棄を起こしそうな人だ。瀬川の兄さん曰く、俺はそれを阻止したかったらしい。曰く、なんて言ったが、多分、俺の心根はそうだ。



「沖田さんですか……そう言えば久しくお目にかかってないですね。いつ頃からです?」


「お前が消えてからすぐだったか。何せ紅椿が来てからだ。島原の華宮を殺せって、俺と総司に文が来てな。その紅椿の動きが何故か新撰組に露見していたんだ。だから俺か総司が新撰組に残って指揮しなければならなくて」


「沖田さんが紅椿を受けたわけですね」


「……あの時、俺が行っておけばよかったと心底思う。厄介な事に巻き込まれるのはまあ性分だから仕方ねぇが、ちゃんと飯を食ってるのかどうか……あぁ、おい、瀬川」


「なんですか?」


「お前、柄にもねぇ事をって思ってんじゃねぇだろうな。中村もだ。何とか言えお前」



 土方さんは照れ隠しでもするかの様にそんな事を言う。俺は立ち尽くしていた。どうすれば俺の道を修正できるだろうかと考えた。修正と言うのはいささか可笑しいか。

 瀬川の兄さんの話に乗ったのは俺の意思でそれは今も変わらないんだ。ただ。そう、土方さんも一緒にやってくれれば一番良いんだけど。あの人は多分、乗らないだろう。



「あの、歳三さん」


「なんだ」


「もしかして私が、総司さんに任せてみてはなどと言ったからかも知れません。総司さんは何と言うか、責任感が強いお人ですし」


「お前がそんな事言うな。それを言うなら日頃総司を頼らなかった俺が悪い事になる。勿論、紅椿に向かわせたのだから悪いのは俺なんだが。とにかく、言うな」


「はい」


「そんな事言う暇があったらさっさと嫁に行け。お前は、紅椿なんかやめちまってな」



 瀬川の兄さんが土方さんを見た。



「土方さんは紅椿を良しとしていないんですか」


「お前はしてるのか」


「それは」


「人を私事で殺すのに良い事なんてねぇよ。例えそれが自分の意思じゃなくてもな。紅椿がやってるのは将軍の、ただの私怨を晴らしているだけに過ぎない。徳川もいつかは滅びるのだからな、それを守ったって――なんて俺の言えた台詞じゃねぇがな」



 瀬川の兄さんは首を振る。だが椿の姉さんはそうしなかった。ただじっと土方さんを見ているだけだ。もしかして椿の姉さんは例の話には乗らなかったのだろうか。

 一抹の不安が過る。



「なら土方さんが中村殿を妻に迎えれば良いのでは? 新撰組の副長の妻ならば、何かと守る事も出来るのではないですか?」


「どうしてそんな話になるんだ」


「いえ。何となく、土方さんは中村殿を守ろうとしている様に聞こえてしまいまして。間違っていたらすいません」



 間違っちゃいない。

 土方さんは椿の姉さんを守ろうとしている。だがそれだけじゃない。多分、この人は全員を何とかして守ろうとしているんだ。自分が犠牲になってでもそうしようとしている。