キミが刀を紅くした


「こわく、ない。怖くないです」


「うん。江戸はどうか知らないけど、少なくとも島原の女はあんたを殺そうなんて考えないから安心しなさい。みーんなあんたよりいい女が揃ってるんだからね。分かった?」


「――はい」



 私が微笑むと絹松さんは笑ってくれた。何だか初めてお母さんに似た人を見つけた気がして嬉しくなった。勿論この人は私のお母さんではないのだけれど。でも。

 ふと、少年がずずいと前に出てきた。



「そうだ椿! 俺、丑松って言うんだ」


「え?」


「吉原丑松。呼んで」


「丑松さん」


「うん、椿」



 にこりと笑った丑松さんはもう少しだけ私に近付いて、預けていた簪を私の手に握らせた。真っ赤なかんざし。少しだけ削れている部分もあるけれど折れてはいない。私の簪。何の思い入れもないけれど今この瞬間に簪は私の宝物になった。そして。

 遠くに見える鏡の中、そこに映る私の顔。まるで美しくなかった。痩せこけた私の顔を見て誰が殺そうとなんて思うだろうか。このままじゃいけない。私は家を得て将軍様にもお約束をしたのにこんな顔じゃ――旅館は繁盛してくれないじゃないか。だめだ!



「絹松さん、丑松さん、島原の皆さん」



 私は布団から出て正座をすると、その床に額をつけた。ゆっくり息を吐いてから空気を私のものにする。前を向け。物理的な意味じゃなくて心で前を向け。私はきれいな女性になりたいわけじゃない。彼女たちみたいに。



「私は島原の傍の旅館を動かしたいと思っています。しかし私には頼れる大人や友人が一人もおりません。どうかご助言をいただけませんか?」


「助言だなんて、椿ちゃん」



 私は彼女たちみたいにいい女になるんだ!



「その代わりと言っては何ですが、私のこの顔を使って客引きをお受け致します。仰っていただけるのであれば雑用でもなんでも致します。どうか――お願い致します!」


「馬鹿をお言いでないよ椿ちゃん」



 絹松さんは私の顎を掴んで顔を持ち上げた。



「丑松はあたしらの子供だ。その子供の命を救ってくれた子供なんだから、あたしらの恩人と言っても過言じゃないんだ」


「え」


「手伝わせておくれ。椿ちゃんのような幼い子がそこまでのものを背負ってるんだ。ここで見捨てちゃ女が廃るよ。ねえ丑松」


「うん。力仕事なら任せてよ、椿」


「みなさん」


「仕事で手伝えない事はあるけれど、できる限り」んたの力になるよ。だから笑いなさい!


 儚く弱い少女はもういない。

 命を狙われようが無下に傷付けられようがもう気にしないことにした。私には。

 ――頼れる人ができた。