「俺は守られたくないんです。俺のせいで人が死ぬのは見たくないんです。だから、強くなりたい」
「仲間を助けたい?」
「綺麗事だと思いますか。あんな職につきながらこんな物騒な事をしているのに、助けたいなんて」
「いいえ」
瀬川の兄さんは不意に笑った。
「沖田さんは初めて会った時、財布を取られた俺の力になろうとしてくれたでしょう。それに俺を七人目の反逆者と呼びましたよね」
「それが、何か?」
「あなたは仲間を護りたい。では俺や丑松殿は? 紅椿はあなたの仲間ではありませんか?」
それはこっちが聞きたい。
新撰組か紅椿か、どちらが荷物になっているのか俺には分からない。だからどっちを仲間と呼んで良いのかも皆目見当が付かない。
「土方さんと沖田さん二人に紅椿が来たと、さっき仰いましたね。だけど沖田さんしか来ないのは」
瀬川の兄さんは知ってる。
頭が良い。質が悪い。
「土方さんを何らかの形で守っている証拠じゃありませんか?」
「で、俺がこの人を殺せないのは紅椿を仲間だと思っているからですか? どっちつかずだなあ」
「決めなきゃいけませんか?」
いけないだろう。両極端にある二つの組織。土方さんはもう随分前から新撰組に決めている。俺だっていつかは決めなきゃだめだ。
じゃなきゃいけない。
「欲張らないんですか。俺は空も飛びたかったし武士にもなりたかったし世の中も変えたかった」
「俺は」
「過去には戻れないんです。後悔するなら欲張りましょう――なんて華宮さんの受け売りですが」
俺はどうなる。分からない。
だけど。
「紅椿を執行しなかったら俺はあの人にどうされるんでしょうね」
「沖田さん」
「帰る所ないんで、今夜は泊めて下さいよ。瀬川の兄さん」
(01:選ぶべき道 終)