キミが刀を紅くした


 島原には番犬がいる。

 多分。俺は二度と島原には足を入れられないし、吉原の旦那にも二度と顔向け出来ない。結局は新撰組からも出ていく事になる。

 ――分かってる。でも。



「じゃあ俺は瀬川の兄さんを迎えに行きますんで。新撰組の事はお任せしましたよ土方さん。中村の姉さんもごちそうさまでした」


「総司、後始末は付けるから」


「いりません。誰かさんと違って俺はそんなヘマはしませんから」


「お気を付けて総司さん」


「――どうも」



 気付いているのかいないのか。中村の姉さんは俺の頭を子供を誉めるみたいに撫でて送った。

 一人街に出た俺はため息と共に島原へ向けて歩き出す。街はいつも通りで人々もいつも通りだ。俺だけが何か異形な気がする。


 でもこれで良い。
 俺は刀を奮いたい。
 例え自分が死んでも。



「総司」


「え?」


「何度も呼んだよ総司。考え事して此処に来るなんてどうしたの」



 派手な着流し。端整な顔。嫌になるくらい甘い雰囲気。何を背負ってるか知らないけど笑う人。

 俺は彼に殺される?



「いやあ、ちょっと色々ありましてね。瀬川の兄さんを探してるんですよ。何処にいますか?」


「華さんが相手するって言ったっきりだな。華岬にいると思うよ」


「そうですか。どうも、お忙しいのにすいませんね吉原の旦那」


「なに、気にしないで良いよ」



 旦那は俺に手を振ってどこかへひょろりと消えてしまった。その後ろ姿を見送りながら俺は彼が何処かに隠し持っている小刀を思った。それで貫かれる俺の心を。

 あぁ、なんだこの思考は。

 早く瀬川の兄さんを見つけて紅椿を執行しよう。刀を奮えば、俺は――強くなれるんだから。



「失礼しまーす」


「あら沖田さん!」


「瀬川の兄さんいます?」