九里さんは何やかんやと男を説得し始めた。男はしゅんとしている。余程九里さんに惚れ込んでいるらしい。だがそうこうしている間に首代が来て男をとり囲んだ。



「罪を償ってから戻っておいで。私は西館で待っているから、ね」


「九里――ありがとう」



 男は清々しい顔で去って行く。首代として来た妙さんは俺を見て小さく頷いた。あぁ、また俺の株が上がらなかった。こんなんじゃ守れるものも守れないな。

 だが後悔している暇はない。俺は九里さんに寄った。眠たいはずなのに目はぱっちりしていて美しい人だ。とても遊女に見えない。だから人気なのかも知れない。



「九里さん、大丈夫?」


「あぁ。ありがとう丑松。あんたが来てくれなかったら拐われてたかも知れないよ。ふふっ」


「笑い事じゃないよ本当に」


「あたしらはあんたが護ってくれてるから大丈夫だよ。皆そう思ってるから心配なんてしてない。それよりあんたは大丈夫なのかい」


「俺?」


「嫌な噂が回ってるだろ? 華宮さんの所で聞かなかったかい?」


「あぁ……幸さんが言ってた気がする。俺の良からぬ噂でしょう」


「違うよ。京吾朗さんの事さ。島原のお得意様なんだけどそれはまあ色男なんだよ。で、女たちが」


「それって俺より色男?」


「言わなくても分かるだろ。あんたが世界で一番さ。それで女たちが京吾朗さんにはまってしまって金品を騙し取られているんだよ」



 ウィンクをした九里さんは言いながら一人の女を呼びつけた。彼女は最近西館に入ったお運びの八重さん。背は小さいけれど気性は島原にはぴったりな人だ。つまり気の強い小さな可愛い女の人。

 だけど今日の八重さんは気の荒いいつもの風ではなかった。何だか少しだけ汐らしい気がする。



「八重も騙されたクチなのさ。でも京吾朗さんに惚れ込んでしまってるから何を言っても聞いてくれなくてね。随分と被害にあってるよ、島原の女たちは」



 何とかしておくれ。

 九里さんはそう言って女たちと共に西館へ戻っていった。