ホールを出て通路を奥へ進むと、大きな取っ手の付いた扉に突き当たった。


平良が分厚い扉を開ける。


さほど広くないその部屋には、ステージの上にあったのと同じような機材が、所狭しと置かれていた。


部屋の中ほどにギターを抱えた男が立ち、奥でもう一人がドラムセットを調整していた。


平良がその二人と軽く挨拶を交わし、さっきまで受付で預かっていてもらったベースのバッグから楽器を取り出した。


良子は隅に置かれていた丸椅子に座り、黙ってそれを見る。


平良は、シールドという黒いケーブルで、チューナーと楽器を繋ぎ、チューニングを始めた。


弦楽器は弦の張り具合で音程が変わり、演奏する前には必ず調整が必要になる。


ドラムが調整を終えて、ビートを刻み始めた。


ギターの人が、それに合わせて音を出す。


平良もチューニングを終え、チューナーに繋いでいたシールドをアンプに差し替える。


楽器の信号がシールドを通してアンプに伝えられ、アンプによって増幅された音がスピーカーから出される。


楽器本体のつまみとアンプのつまみを調整し終えた平良が、弦をはじいた。


体を貫く低音に、良子は身震いする。


しなやかな指使いに、また見惚れる。