一葉に微笑みを返し、良子はステージに視線を移した。
機材がたくさん置かれている、無機質な光景。
けれど、そこにバンドが現れることで、良子の心をこれ以上にないほど高揚させる場所。
良子は心を空っぽにして、フロアに充満する湿った空気を取り込む。
余計なことを考えるなんてもったいない。
カートのライヴを全力で楽しまないなんて、馬鹿なことだ。
良子はカートの“ファン第一号”なのだから。
「来た…!」
一葉の興奮した声と共に、カートのメンバーがステージに現れた。
知人かファンか、三人の名前を呼ぶ声が飛び交う中、まだ薄暗いステージの上で、手早くセッティングをする。
弘治がバスドラムの感触を確かめるように、二度、低い音を放った。
屈んでいた明人と平良が立ち上がり、ドラムに体を向け、三人が向き合うような形になる。
準備ができた合図に、互いに頷き合う。
まだスポットライトは点かない。
でも、始まるとわかるように、空気が変わった。
弘治がカウントを刻む。
そして、光と音が、炸裂した。


