良子は半ば上の空で、一組目のバンドの演奏を聞いていた。
フロアは盛り上がり、圭はとっくに前方へ駆けて行き、人に飲まれて姿が見えなくなっていた。
一葉も楽しげに体を揺らしている。
曲が進むごとに、カートの出番が徐々に迫っていた。
こんなに盛り上がったバンドの後で演奏するというのは、どういう気分なのだろう。
良子は弘治、明人、平良に思いを馳せる。
三人のことだから、緊張もせずに堂々とした演奏を見せてくれるに違いない。
しかし、全く心配しないというのも難しい。
一組目のバンドが全ての曲の演奏を終えて舞台袖に消えていくと同時に、気分を落ち着かせようと、長く息を吐いた。
「良子さん、大丈夫ですよ」
肩に感じた温もりに顔を向けると、一葉がそっと微笑む。
「ステージに立つのって、緊張するけれど、最高に気持ちが良いんです。すごく楽しいんです。だから、良子さんも楽しみましょう」
その言葉が、良子の固まった心を溶かしていくようだった。
三人も、心配して見守られるより、楽しんで飛び跳ねて聞くことを喜んでくれるはずだ。
弘治が何度も言っていたことを思い出す。
ライヴで目標にするのは、うまく演奏することではなく、フロアを沸かせるような演奏をすること。
理想とするライヴとは、オーディエンスの心を掴み、バンドとオーディエンスが一つになること。
三人と良子の間でさえそれが成されないのであれば、このフロア中の人々とそうなることなど到底あり得ない。


