それぞれの楽器やマイクの調整の後、一曲通してバランスを見る。
それがアナウンスされた時、良子の胸は高鳴った。
スタジオでしか聞いたことがなかったカートのサウンドが、この広い空間でどのように聞こえるのか、全く想像ができない。
しかし考えるだけで体が震えた。
良子はこの時を、小さな卵の中で時間をかけて育った鳥が、殻をやぶり、大空へ羽ばたく瞬間に重ねる。
曲が出来上がっていく様子をずっと見てきた良子は、さながら親鳥のような気分だった。
スタジオの中で練りに練った曲が、今まさに解き放たれようとしている。
この貴重な瞬間に立ち合えることを、改めて幸せに思った。
三人が目配せをして、頷き合う。
良子はごくりと唾を飲み込む。
そして、弘治がスティックでカウントを刻んだ。