三組のバンドが演奏を終え、今夜の対バンライヴは幕を下ろした。
「良子!」
ここでそう呼ぶのは、圭だけだ。
明人の眉がピクリと上がるが、それに気付かない良子は無邪気に圭に駆け寄る。
「圭君!ジェイビーズ、すごく良かったよ!」
「サンキュー!…あ!あきっ…明人さんっ」
圭が明人の存在に気付き、尊敬するギタリストを前にしてあたふたと慌て始める。
「あ、明人君、紹介するね。ジェイビーズの圭君だよ」
「は、はじめまして!おれ、明人さんに憧れてて、えと、その、会えて感激っす!!」
体を折るようにして頭を下げる圭を見て、明人はつい笑ってしまう。
良子に慣れ慣れしくしているのは不快だが、決して悪い男ではなさそうだ。
「うまかったよ。音も良かった」
明人が言うと、圭は目を潤ませる。
「…感激っす!!」
「ふふ、良かったね、圭君」
良子が笑うと、
「良子のおかげだよ!ありがとう!」
圭が良子の手を取るので、
「おい、気安く触るな」
明人に頭を叩かれる。
「ってぇ!」
相当強く当たったらしく、圭は頭を抱えてもだえている。
「あのぅ、この後打ち上げなんですけど、良かったら一緒にどうですか?」
涙目になりながら圭が問うけれど、明人は即座に拒否する。
「やだ。うちの大事な姫を、これ以上危険にさらしたくないんでね」
「姫!?…ひっ姫!?」
思いがけない明人の言葉に、良子はひとり赤面する。