良子にとって、三度目のライヴだ。
いつもながら、この空間に足を踏み入れるだけで気分が高揚する。
まだ灯りの落ちたままのステージには、相変わらず所狭しとアンプなどの機材が並んでいる。
以前は何がどんな役割を持つのかさっぱりわからなかったが、スタジオに通う中で少しずつ覚え、今ではよく知るものとなっていた。
「先にドリンク飲もうか。おれ、ビールにするけど、良子ちゃんは?」
「カシス…ううん、ジントニックがいい!」
平良の好きなカクテルを、良子はいつか飲みたいと思っていたのを思い出す。
明人は良子を残して、人をかき分けるようにバーカウンターに向かい、やがてプラスティックのコップを二つ持って戻って来た。
「乾杯!」
コップを合わせ、良子は初めてのジントニックに口をつける。
独特の風味が口の中に広がり、炭酸が喉を刺激する。
「おいしい!」
「ハハッ。良子ちゃんもすっかり酒好きだね」
「へへ。でもまだビールは飲んだことないよ」
「そうなの?じゃあ一口」
明人はおもしろがってコップを差し出してくる。
反応は明人の期待通り、一口含むやいなや、良子は顔をしかめた。
少し苦労しながらごくりと飲み込んだ後、
「ちょっとまだ早いみたい」
神妙な顔をするより他になかった。