少しきつく言い過ぎたかと思い、明人は良子の頭を撫でる。
「良子ちゃんのためを思って言ってるんだからね」
すると良子は、その手をすり抜けて一歩下がる。
「明人君にも触らせないんだから」
頬を膨らませた良子を見て、明人は思わず吹き出す。
「おれはいいの」
そしてもう一度良子の頭に手をのばし、今度はくしゃくしゃと乱暴に撫でた。
「さ、行くよ」
納得のいかない顔をする良子を残し、明人は地下のスタジオへ向かって階段を降りた。
そして手早く二人分のチケットを買う。
「あ、明人君、お金…」
良子が慌てて財布を出そうとするが、
「今日はおれのおごり。だから機嫌直してね」
今度はあやすように、良子の頭をポンポンと叩く。
「う…。ありがとうございます…」
良子は複雑な表情を浮かべ、ぺこりと頭を下げた。
「ぷっ。何で敬語?」
「…今日の明人君、意地悪です」
良子はうつむいたまま、明人の後に続いた。
「ハハッ。意地悪ですか」
明人は笑いながら、ホールの扉を開ける。
独特の熱気が溢れて来て、良子は顔を上げた。