良子は思い出したように、バッグから一枚の紙を取り出す。
「配ってる時にね、“ジェイビーズ”っていうバンドの子と知り合ったの」
テーブルに置いたのは、圭から受け取ったフライヤーだった。
「ジェイビーズ…聞いたことがあるような、ないような」
弘治がフライヤーを覗き込みながらつぶやく。
「ギターとドラムの子に会ったんだけど、ギターは高二の男の子で、ドラムは中三の女の子だよ」
「へぇ、若いね」
「でね、ギターの男の子が、明人君のファンなんだって!」
そう言われて、明人は目を丸くする。
「おれ?」
良子がニコニコして尊敬の眼差しで明人を見るものだから、明人はすっかり照れてしまう。
ファンだと言われることは今までにもあったが、少なくとも明人の知る範囲では、こんな風に純粋な目で見つめられることはなかった。
それに追い打ちをかけるように、
「ライヴ、一緒に行ってほしいな」
甘えた声でそう言われては、もはや断ることなどできない。
弘治と平良はどうしてもバイトが抜けられないというので、尚更だった。
「ありがとう、明人君!」
無邪気に笑う良子のためなら、バイトのシフトを代わってもらうために仲間に頭を下げることなど、苦ではないと思った。