良子は、今度は表情をほころばせて言う。


「弘治君、ありがと。心配かけてごめんなさい」


口をきゅっと結んでいた弘治だったが、耐えかねたように良子の頭に手をのばし、くしゃくしゃと乱暴に撫でる。


「もー!かわいいなぁ!こんなことしてくれるなんて、うれしいに決まってんじゃん!」


弘治の言葉に、良子はふいに泣きそうになる。


バンドのためと思っていたが、果たして本当にそうなのか不安でもあった。


フライヤーを配っている間には、怖い目にあったし、辛くも思った。


こうして認めてもらえて初めて、自信を持つことができる。


良子もバンドのメンバーだと言ってもらって以来、ようやくバンドのために何かを成し得ることができたことは、良子にとってこれ以上にない喜びだった。


明人も言う。


「良子ちゃん、ありがとう」


しかしフライヤーに視線を落とし、首をかしげる。


「でも、なんでクマ?」


平良の表情を伺うと、最初はわかっていないようだったが、良子と目が合った時に気付き、口の端だけで笑ってみせた。


それが秘密の合図のようでうれしくなった良子は、いたずらに笑う。


「ふふ、秘密」


明人も弘治も、いぶかしげな表情をしていたが、フライヤーの出来栄えには満足してくれたようだった。