ジェイビーズのライヴは、カートのライヴの一週間前だ。
ピリピリしたムードの中、他のバンドのライヴに遊びに行こうと誘うには、多大な勇気が必要になる。
良子はまだ心の準備ができていなかった。
しかし、それを打ち明ける機会は意外にも早く訪れる。
「良子ちゃん、一人でコソコソ何やってるの?」
久しぶりの四人での夕食が始まるやいなや、弘治が良子をにらむ。
「…え?な、何のこと?」
目をそらして斜め上を見ながら、良子はとぼけてみる。
しかし、それは無駄な努力に終わった。
テーブルの上に、一枚の紙が置かれると、もう言い逃れはできない。
良子が作ったフライヤーのコピーに間違いなかった。
「勝手なことして、ごめんなさい…」
ムスッとした弘治の顔を見て、怒っているのだと思い、良子はしゅんとうなだれる。
それに気付いた明人が、慌てて訂正する。
「良子ちゃん、別に怒ってるわけじゃないって。おい、弘治。お前の顔が怖いんだよ」
そう言われて恐る恐る弘治の顔を見るも、表情は変わっていない。
「弘治」
明人ににらまれた弘治は、すねたように口を尖らせて言う。
「だって、水くさいじゃん。大変だったんじゃないの?夜にビラ配りなんて、危ない目に合わなかった?」
その言葉を聞いて、良子はホッとする。
弘治は良子の行動を怒っているのではなく、心配していただけだとわかったからだ。


