良子は自分の部屋に戻るやいなや、机に向かった。
スタジオ練習の帰りにライヴハウスに立ち寄り、もらってきた紙の束を、そこに広げる。
それは、ライヴやイベントの宣伝のために作られたフライヤー、いわゆるビラやチラシだった。
良子は、今度のライヴに向けて、フライヤーを作ることにしたのだ。
弘治に聞いたライヴイベントの情報を元に、もらってきたフライヤーを真似て下書きをしていく。
イベントのフライヤーというより、KARTの結成をアピールするような物を作るつもりだ。
“KART 1st LIVE”の文字と共に、イベント名や日時、共演するバンド名を書き連ねる。
「あ、そういえば、バンド名は“カート”でいいのかな?仮の名前って言ってたけど…」
腕を組んでうなる良子。
しかし考えて答えが出るはずもなく、“KART”の横に小さく“(仮)”と書くことにした。
文字に装飾をつけ、淋しげな空白のスペースに楽器のイラストを描いた。
「ちょっとポップすぎるかな…」
女の子が描いたと一目でわかってしまうフライヤーを見ながら、良子は再び腕を組む。
「うーん、何か足りないな。ロックと言えば…ドクロ?」
良子のイメージのままに、スカルのイラストを描いてみる。
「あ!」
その時、あることを思い出した。