以前から良子にとって学校はつまらない場所で、高校生になってもそれは変わらなかった。


誰でもいいからと友達を作る気もなかったし、席が近くて何度か話した子達とも、話が合わずにそれっきりだった。


バンドのスタジオ練習を欠かさず見に行きたいという理由から、部活に入ることもバイトを始めることもなかった。


結果、高校では孤立することになるが、それでも淋しくはないと思っている。


スタジオに行けば、そこに居場所がある。


しかし、それは果たして本当に自分の居場所なのだろうか。


バンドのメンバーでもないのに、そこを居場所と呼んでいいのだろうか。


それを考えると、良子は複雑な気分になった。


こうして練習を見に来ることも、本当はメンバーの邪魔になっているのではないだろうか。


小さな葛藤が良子を苦しめる。


そんな中、仮のバンド名が、弘治から告げられた。


「その名も、“カート”」


良子が手を叩いて盛り上げようとするが、


「もしかして、頭文字並べただけとか言わねーよな」


明人が冷めた口調で言い、弘治がたじろぐ。


一方良子は、頭の中で文字を並べながら、首をかしげる。


「弘治君の“K”でしょ、明人君の“A”、平良君の“T”だったら…“KAT”…カットじゃないの?」


良子のその言葉を聞き、弘治が得意気に言う。


「良子ちゃんの“R”を忘れてるよ」